物理学教室コロキウム (2000 年以降)

開催場所: 慶應義塾大学日吉キャンパス 第 2 校舎 2 階 221 番教室
お問い合わせはセミナー係まで.e-mail: seminar アット phys-h.keio.ac.jp.NOSPAM

2016年


放射線の生体影響を定量評価可能にするもぐらたたきモデルについて:解説と今後の展開

講師:眞鍋勇一郎 (大阪大学)
日時:February 2nd, 16:30 - 18:00

放射線の生体への影響は多くの実験結果に関わらず、未だに明確に解明されたとは言えない。大きな理由として様々な実験が蓄積されているにも関わらず、個々の実験同士を関連づける統一的に説明する数理モデルが存在しないことが挙げられる。特に低線量、低線量率放射線による影響はその実験、実証が困難なため、定量化が難しい。

我々は放射線誘発突然変異というマクロな現象をミクロレベル(今回は細胞)の物理モデルから説明できないだろうかと考え、刺激応答反応に線量率効果を取り入れて放射線の生体影響を定式化した数理モデル(モグラたたきモデル)を開発してきた。その結果、これまでに以下の結果を得た。

  1. 5種類の生物、マウス、ショウジョウバエ、トウモロコシ 、ムラサキツユクサ、キクの放射線誘発の突然変異発生頻度の実験を再現することが出来る
  2. 低線量率長期被ばくにはリスクの上限が存在する可能性がある
  3. 放射線を受けていない状況でも多くのDNAの損傷が起こっているが、それを引き起こす放射線量を定量可能
  4. 設定したパラメータのうち一つは進化速度と関係する可能性がある

今回はもぐらたたきモデルの概略と今後の展開について講演する。

参考文献:

  1. Yuichiro Manabe, Kento Ichikawa Masako Bando, A Mathematical Model for Estimating Biological Damage Caused by Radiation, J. Phys. Soc. Jpn., 81 (2012) 104004.
  2. Yuichiro. Manabe, Masako Bando, Comparison of data on Mutation Frequencies of Mice Caused by Radiation With Low Dose Model,J. Phys. Soc. Jpn., 82 (2013) 094004.
  3. Yuichiro Manabe, Issei Nakamura, Masako Bando, Reaction rate theory of radiation exposure:Effects of dose rate on mutation frequency, J. Phys. Soc. Jpn., 83 (2014) 114003.
  4. 真鍋勇一郎,中村一成, 中島裕夫,角山雄一,坂東昌子、 LNT再考 放射線の生体影響を考える, 日本原子力学会誌, Vol. 56, No.11 (2014) 705.
  5. Yuichiro Manabe, Takahiro Wada, Yuichi Tsunoyama, Hiroo Nakajima, Issei Nakamura, Masako Bando, Whack-A-Mole Model: Towards unified description of biological effect caused by radiation-exposure, J. Phys. Soc. Jpn. 84 (2015) 044002.
  6. 坂東昌子,真鍋勇一郎、澤田哲生, LNTは成立しない!?低線量では細胞レベルで修復メカニズムが働く(座談会), 日本原子力学会誌, Vol.57, No. 4 (2015) 252.
  7. 真鍋勇一郎, 和田隆宏, 中村一成, 角山雄一,中島裕夫,坂東昌子,放射線誘発突然変異頻度の線量・線量率応答への数理モデル~Whack-A-Moleモデル~の適用, 放射線生物研究, Vol.50(3) (2015) 211.

2015年


Topological phase of matter and quantum field theory

講師:Taro Kimura (Department of Physics, Keio University)
日時:November 16, 16:30 - 18:00

Recent progress in condensed-matter physics motivates us to introduce the notion of “topological phase” which plays a great role in characterization of state of matter. The topological nature of electrons exhibits various interesting phenomena, and is highly expected to be applied to efficient future devices. So, the study of topological properties drastically involves both experimental and theoretical ones these days. In this talk I’d like to present how we can approach to such topological phenomena from the viewpoint of quantum field theory (QFT), especially with emphasis on its connection to topological terms in QFT, quantum anomalies, and so on. I’ll also refer to a role of gravity and string theory in the study of topological phases.


Particle phenomenology/cosmology and string theory

講師:檜垣 徹太郎(慶應義塾大学 物理学科)
日時: 2015年5月25日(月)16時30分 〜 18時00分

超弦理論は素粒子統一理論の候補といわれて久しいが、 このトークでは素粒子現象論・宇宙論への弦理論的応用や理解とともに、 問題点を議論する。


2014年


標準理論再考、そして場の量子論再考

講師:三角樹弘(慶應義塾大学日吉物理学教室)
日時: 2014年8月4日(月)16時30分 〜 18時00分

Large Hadron Collider(LHC)でのヒッグス粒子の発見によって標準理論の パラメータが全て確定し、素粒子理論は新しい時代に突入した。 一方、超対称模型を中心とした標準理論を超える模型から予言される 粒子発見の兆候は全くと言っていいほどない。実際、決定されたヒッグスセク ターのパラメータも標準理論的ヒッグス粒子を示唆している。 この状況により、これまで30年間に提案されてきたほとんどの素粒子模型は棄却 され、素粒子物理学は混沌とした状況に陥りつつある。 (LHCの2nd runでも状況が変わらなければ) 私は、これはむしろチャンスであり、 今こそ素粒子理論を支える壮大な土台である「場の量子論」特に 「非可換ゲージ場の量子論」を単純な摂動論を越えて見つめ直し、 もう一度基本に立ち返って素粒子物理を考える時期だ、と考えている。 この講演では、私が考える標準理論そして場の量子論の問題点のいくつかについ て議論を行う。


トポロジカル輸送現象:物性から宇宙物理まで

講師:山本直希(慶應義塾大学理工学部物理学教室)
日時: 2014年8月4日(月)14時30分 〜 16時00分 オームの法則やフーリエの法則に代表される輸送現象は身の回りに 満ちあふれており、それらを記述する輸送理論は物性・原子核・宇宙 物理学など様々な分野で応用されている。 この談話会では、初期宇宙、中性子星、高エネルギー重イオン衝突 実験などの相対論的な系で身の回りで起きない新奇な輸送現象が起こる ことを紹介する。特に、これらの輸送現象のもたらす新しいタイプの プラズマ不安定性によって、宇宙最強磁場をもつ天体(マグネター) の磁場の起源が説明できる可能性があることを議論する。

台風の科学

講師: 伊藤耕介氏 (海洋研究開発機構/慶應大学)

日時: 2014年1月21日(火)午後4時30分 〜 午後6時00分

台風は自然災害に関連した非常に激しい気象擾乱である。本講演では、力学と熱力学の観点から台風という渦について述べる。まず、現在の台風の基礎理論であるWISHE理論について触れたのち、観測的に見られる構造や台風の進路が大規模な流れによって決まること、台風の強度が中心付近の内部コアダイナミクスに依存していることなどについて説明する。時間に余裕があれば、台風の予報に関する取り組みについても述べる。

2013年


インフレーション宇宙論の進展

講師: 須山輝明氏 (東京大学ビッグバン宇宙国際研究センター )

日時: 2013年12月17日(火)午後4時30分 〜 午後6時00分

現在の宇宙構造の不自然性を解決するために、宇宙誕生後のごく初期に宇宙が急激な加速膨張を経た期間があったとするのがインフレーションのアイデアである。銀河や星などの素である原始密度揺らぎの起源を自然に説明する点においてもインフレーションは非常に魅力的な考えであり、すでに現代宇宙論の根幹となっている。しかし、インフレーションを実現する具体的な機構は分かっておらず、これまでに様々な理論モデルが提唱されている。どの理論モデルが正しいのか現段階では分かってはいないが、原始密度揺らぎの統計的性質が理論モデルによって少しずつ異なるため、原理的には観測から区別できる。最近の宇宙マイクロ波背景放射の温度揺らぎなどの精密観測を使って、インフレーションモデルを観測から検証できる時代についに入ってきた。この談話会では、この分野の最近の状況及び将来の展望を説明する。

ブラックホールの物理学

講師: 村田 佳樹 氏 (慶應義塾大学 日吉物理学教室)
日時: 2013年5月20日(月)午後4時30分 〜 午後6時00分

本講演では、ブラックホールに関する物理を非専門家向けに解説します。まず基礎理論である一般相対論について簡単に説明し、そこから導かれるブラックホールのいくつか性質について話します。その後、最近精力的に研究されている高次元時空におけるブラックホールについて解説します。最後に、高次元ブラックホールの摂動論について私の研究内容を交えて話したいと思います。


物理屋さんのためのガロア理論:自発的対称性の破れと5次方程式の可解性について

講師: 竹内 建 氏 (ヴァージニア工科大学)
日時: 2013年1月21日(月)午後4時30分 〜 午後6時00分

2011年10月25日は、ガロア生誕200周年の日でした。 エヴァリスト・ガロアは、1811年10月25日に生まれ、1832年5月31日に、 僅か20歳の若さで決闘による銃創で死んでいます。 決闘の前夜、自分の死を予感したガロアは、一晩で自分の数学研究の成果を要約した論文を 書き上げ、それが死後発見されてガロアは有名になったのですが、彼の業績とされているのが、 群論の発明とそれを使った5次以上の方程式の解の公式の非存在証明です。 このお話しは数学マニアの間では常識ですし、 物理屋さん達の間でも良く知られていることだと思います。 しかし、具体的にガロアが群論を使って、 どのようにして5次方程式に解の公式が存在し得ないことを証明したのか、 ということまではあまり知られていません。実際、その証明を知ろうとするならば、 かなり進んだ代数学の講義、特に体論の講義を受けなければならず、 受けてもなかなか理解が難しいというのが実情です。 群論を毎日のように使っている物理屋さんが、群論の最初の成果である ガロアの理論を知らないというのはとても残念なことです。 そこでこの講義では、通常の代数学で使われる体論からのアプローチは使わずに、 もっと物理屋さんにはなじみのある「自発的対称性の破れ」の概念を使うことによって、 ガロアの証明を解説しようと思います。 先ず、代数方程式が解の任意の入れ替えに対して不変である という対称性を有しているところから出発し、2次、3 次、そして4次方程式の解の公式が、 累乗根を使ってその対称性を破っていることを説明します。 そして5次方程式に関しては、累乗根によっては その対称性を完全には破ることができないことを示し、 それが解の公式の非存在証明になっていることを解説します。


2012年


Numerical Approach to Superstring/M-theory

講師: 花田政範氏 (高エネルギー加速器研究機構)
日時: 2012年12月17日(月)午後4時30分 〜 午後6時00分

概要: このトークでは、モンテカルロシミュレーションを用いた超弦理論やM理 論の研究のこれまでとこれからを解説したいと思います。超弦理論やM理論は、 量子論的な重力理論の最有力候補ですが、その非摂動的な性質は未だに完全に は理解されていません。それを理解する上で重要になるのが、「超弦理論やM理 論はある種のゲージ理論と等価である」という予想です。(特に、マルダセナ によるゲージ/重力双対性予想が有名です。)このトークでは、まず、超弦理論 とは何か、それがゲージ理論で記述できるとはどういう意味なのか、といった ことを簡単に説明します。そのあとで、ゲージ理論のシミュレーションの仕方 や、これまでに得られた結果を紹介したいと思います。


行列模型、弦理論、共鳴トンネル効果

講演者:多田司 理化学研究所
日時: 2012年11月2日(金)16:30から

最近、半導体などでよく知られている共鳴トンネル効果が、 行列模型のダイナミクスにも大きな効果を与えうることが講演者によって見い出された。 行列模型は原子核物理や物性物理学など広範な物理と密接に関わる一方、 弦理論の非摂動的側面の研究でも決定的な役割を果たす。 本講演では今回の研究を軸に、行列模型と弦理論の関わりを含めて紹介する。


異常輸送現象の現代的解釈

講師:齊藤圭司 (慶應義塾大学理工学部物理学科)
日時: 2012年6月18日(月)午後4時30分 〜 午後6時00分

低次元輸送現象、特に熱輸送に関しては、多くの理論および実験により、 一般にその輸送形態が異常輸送になることが確立されつつある。現実的な 系としては、カーボンナノチューブやグラフェーンなどが典型的な例である。 異常輸送を記述する理論として、古くからフェルミーパスターウラム系が使 われている。しかしながら系が可解でないので、その本質的なメカニズムを 理解するのは容易ではない。我々は、異常輸送を記述する確率的 モデルを導入し、温度プロファイル、流れ、また流れの揺らぎなどを そのモデルの範囲内で厳密に解析的に議論する。


ラトルバックはなぜ反転するのか?

講師: 高野浩志氏 (上越教育大学)
日時: 2012年5月16日(水)午後4時30分 〜 午後6時00分
場所: 慶應義塾大学日吉キャンパス第2校舎2階222教室    (普段と異なるので注意してください)

概要: ラトルバックとはコマの一種で、ある方向に回すとそのまま回り続けるが、反対 の方向に回すと、そのうちがたがた(ラトル)し反転(バック)する、という奇 妙な振る舞いをするおもちゃである。ラトルバックを見せると、初めて見た人は 必ず目を丸くして驚き、「なんで、なんで」という質問をする。反転している時 「ハンドパワー〜〜〜」と言いながら見せると、「え〜〜電磁波?」とかいう珍 発言も出てくる。 「ラトルバックがなぜ反転するのか」という問いに関する研究は、1896年の G.T.Walkerの先駆的論文から始まり、さまざまな研究者がいろいろな角度から探 究し、かなりのことが分かっている。しかしながら、数式の上ではわかっている が、それに関してのわかりやすい解説は、いろいろ探してみたが見つからない。 したがって、いつも質問を受けた時、わかりやすく説明できないどかしさがあっ た。そこで、なるべく数式を使わないで、反転の解説を試みた。一言で言うと 「亀のひねり効果」と「押したり引いたり効果」によって、反転するのである。 今回のセミナーではこれが何の事を言っているのかを詳しく述べたい。


シリコン量子コンピュータの実現に向けて

講師: 伊藤公平氏 (慶應義塾大学 理工学部 物理情報工学科)
日時: 2012年1月23日(月)午後4時30分 〜 午後6時00分

概要: 半導体シリコン中に意図的に添加されたたった一個の不純物に、ビット(0または 1)情報を蓄え、演算を行い、読み出す事は可能でしょうか?この質問が今回 お 話する研究のスタートでした。原子レベルですから自然と量子力学の世界、すな わち量子コンピュータとなります。そこで私たちは2002年に29Si核スピンを用い た全シリコン量子コンピュータの構成を提案し(PRL, 89, 017901)、以来、その 実現の可能性を探る物性研究を続けてきました。それらは、29Si核スピンコヒー レンス25秒の実現 (PRB 71, 014401 (2005))、Si中電子スピンの29Si核スピンに よるデコヒーレンス機構の解明(PRB, 70, 033204 (2004) & 82, 121201 (2010))、リン核スピン状態の光学測定と初期化(PRL 97, 227401 (2006) & 102, 257401 (2009)) 、電子スピン相互作用のコヒーレンスに対する影響の解明 (Nature Materials, advance online publication doi:10.1038/nmat3182, 2011)などで、2011年にはSi中のリン不純物の電子スピンと核スピンで2量子ビッ トの計算に成功しました(Nature, 470, p. 69)。シリコン中の原子一個でのビッ ト操作はムーアの法則が予測するチャネル長に換算すると2030年の技術ですが、 本当に役に立つようにするためにはまだまだ乗り越えなければいけない壁だらけ です。そのあたりをざっくばらんにお話します。


2011年


世代の謎とニュートリノ

講師: 吉岡 興一 (慶應義塾大学 理工学部 物理学科)
日時: 2011年10月31日(月)午後4時30分 〜 午後6時00分

素粒子の標準理論によると、われわれの物質粒子であるクォークとレプトンは 3回のくり返しパターンを持っており、これを世代と呼ぶ。 「なぜ3世代あるのか?」「世代の違いはどのように決まるか?」等は 未だに 大きな謎であり、統一理論へ向けた重要な足がかりとなる。 本講演では、世代構造へのさまざまな実験・理論的アプローチを概説し、近年の発展を紹介する。


クォーク・グルーオン・プラズマの驚くべき物性

講師: 福嶋 健二 (慶應義塾大学 理工学部 物理学科)
日時: 2011年7月11日(月)午後4時30分 〜 午後6時00分

通常は閉じ込められていて自由度として見えないクォークとグルーオンがスー プのように溶け出した熱くて密な物質状態「クォーク・グルーオン・プラズマ」 は人類が作り出してきたものの中でも、最も驚くべき性質をもった物質である。 すなわち、現在の宇宙で最も温度が高い、存在しうる物質の中で最も粘性が小 さい、驚くべき早さで熱平衡に達する、かすり衝突では中性子星など比べ物に ならない強磁場が発生する、もしかしたらこれまた中性子星中心部よりも高い バリオン密度も達成できるかもしれない、等々。本講演ではこの驚くべき物質 に対して、理論研究者たちが挑戦を続けている様々な理論的アプローチのいく つかを紹介する。


地球型惑星の多様性--火星と金星--

講師: 小郷原 一智 氏 (宇宙航空研究開発機構,JAXA)
日時: 2011年6月13日(月)午後4時30分 〜 午後6時00分

日本の金星探査機あかつきの金星軌道投入(VOI)は失敗に終わったが、あかつ きは再度の金星接近のために太陽の周りを航行している。この講演では、あかつ きや20世紀末の火星探査機のぞみに代表される惑星探査機に関連して、火星や金 星などの地球型惑星大気の諸問題を概観し、現在の理解を説明する。金星に関し ては、あかつきが解明しようとする金星大気の問題、特にスーパーローテーショ ンを概説する。火星に関しては、もっとも目を引く異常気象であるグローバルダ ストストームについて解説する。いずれにしても、はっきりとした答えは未だ提 出されていない。想像力豊かに夜空を見上げていたころのように、童心に帰って 楽しんでいただければ幸いである。


ヒッグス粒子の正体? 〜階層性問題を手がかりとして〜

講師: 丸 信人 氏 (慶應義塾大学 日吉物理学教室)
日時: 2011年5月10日(火)午後4時30分 〜 午後6時00分

1970年代初頭に完成した素粒子とその相互作用を記述する標準模型は、現在 まで観測されている実験データをよく説明し非常に成功を収めている。しかし、 標準模型は様々な問題を抱えているために基本理論とは考えにくく、(ある基本 理論の)低エネルギー有効理論と考えられている。その問題の多くは、標準模型 の中で唯一の未発見粒子であるヒッグス粒子に関連しており、その中でも「階層 性問題」と呼ばれる問題の解決へのアプローチの方法によって、様々な「標準模 型を超える新しい物理」が提案されている。 この講演では、標準模型を超える新しい物理につながる代表的なアイデアを紹介 し、素粒子模型構築のレシピを概観する。


2010年


Semi-classical brane in AdS spaces

講師: 阪口 真 氏 (慶應義塾大学 自然科学研究教育センター)
日時: 2010 年12 月10 日(金)午後4 時30 分 〜 午後6 時

ゲージ理論と重力理論の双対性の具体実現であるAdS-CFT双対性仮説は、典型的 には、AdS_5xS5上のタイプIIB超弦理論と4次元N=4超対称Yang-Mills理論の間の 双対性を予想する。特にAdS_2に広がった基本弦の世界面の面積とゲージ理論の Wilson lineの期待値との一致は、AdS-CFT対応の非自明な検証を与えた。本講演 ではこの延長として以下の3つの話題について紹介する。

  1. AdS_2基本弦の揺らぎと基本表現に関するWilson lineに挿入される演算子 の対応
  2. 対称表現に関するWilson lineに双対だと期待されるAdS_2xS2に広がったD3 ブレーンの揺らぎ
  3. AdS_4xS7/Z_k上のM2ブレーンの揺らぎ
参考文献

Electronic properties of graphenes --- singular physics at Dirac point

講師:越野 幹人 氏 (東北大学)
日時: 2010 年11 月26 日(金)午後4 時30 分

厚さが1層ないし数原子層というグラファイト超薄膜が実験的に作成されるよう になり、その物性に関する研究が急速に進められている。これらの物質では伝導 帯と価電子帯がエネルギーギャップ無しに接した特殊なバンド構造をもち、ディ ラック点と呼ばれるバンド接点は様々な物理量に特異性をもたらす。ここでは単 層、多層グラフェンの基本的な電子物性(電気伝導特性、光学特性、軌道反磁 性)に関する最近の研究に触れ、ディラック点のもたらす特異な物理現象につい て紹介する。


Gravitational analogy in Bose-Einstein condensates

講師:栗田 泰生氏(神奈川工業大学)
日時: 201年10月18日(月)16:30

ボース・アインシュタイン凝縮体を用いて、ブラックホールでのホーキング輻 射や初期宇宙における量子ゆらぎの生成といった曲った時空上での量子現象を 検証することが現実味を帯びてきている。本講演では、曲った時空における量 子現象とボース・アインシュタイン凝縮体における量子現象との関連を、理論 的な視点から紹介する。


World of Quantized Vortices and Quantum Turbulence

講師: 小林未知数氏(東京大学大学院総合文化研究科)
日時: 2010年7月26日(月)午後4時30分 〜 午後6時

In quantum fluids such as superfluid helium and gaseous Bose-Einstein condensates, gause symmetry is broken, and topological defects can exist as quantized vorticesaround which circulation is quantized.Quantum turbulence in which many quantized vortices get tangled, has been attracting researcher's interests in view of the constrast with the ordinary viscous turbulence. In contrast to vortices in viscous turbulence which is difficult to be identified, it is easy to identify quantized vortices in quantum turbulence as topological defects, and quantum turbulence has been expected to be an ideal turbulence to clarify the relationship between vortices and turbulence. In the seminar, I will talk about the history of quantized vortices and quantum turbulence, and show its recent theoretical and experimental developments.


Pseudogap Physics in Strongly interacting Fermi gases

講師: 土屋俊二氏 (東京理科大学)
日時: 2010 年 6月 7日(月) 午後 4 時 30 分 〜 午後 6 時

Ultracold atomic Fermi gases provide an opportunity to study strongly interacting Fermi system. Recently, pseudogap phase has been observed in this system above the transition temperature (Tc) of the BCS-BEC crossover. Since pseudogap is considered to be a key to understand the mechanism of high-Tc cuprates, pseudogap in ultracold Fermi gases has attracted great attention. We investigate pseudogap behaviors of an ultracold Fermi gas in the BCS-BEC crossover. We calculate the single-particle density of states (DOS), as well as the single-particle spectral weight, including pairing fluctuations within the framework of T-matrix approximation. We clarify how the pseudogap structure appears in DOS above Tc in the BCS-BEC crossover region and discuss its origin. We also discuss signatures of pseudogap in photoemission spectrum, which was recently measured by the JILA group.


LESにおけるパラメタリゼーションの自己整合性の検証

北村 祐二 氏(気象庁気象研究所)
2010 年 1月 27日(水) 午後 4 時 30 分 〜 午後 6 時
Large-Eddy Simulation(LES)は,流体の乱流成分の大半を陽に扱えることを前提として,格子スケール以下の乱流成分のみをパラメタライズする数値計算手法である.LESでのパラメタリゼーションスキームとして様々な定式化が提案されているが,大気境界層に適用した場合に個々のスキームが定量的にどの程度の妥当性を持つのかは不明瞭な点も多いように思われる.本研究では,大気境界層モデルで広く利用されているパラメタリゼーションスキームを用いて安定境界層の数値実験を行い,Meneveau and Katz(1999)によって提案されたアイデアに基づいて,Germanoの恒等式を活用して個々のスキームの妥当性を定量的に評価することを試みた.発表では,Germanoの恒等式に基づく解析手法,解析から得られるパラメタリゼーションスキームの特性について紹介する.

2009年


月探査機かぐや搭載ガンマ線分光計

小林正規 氏 (千葉工業大学・惑星探査研究センター)
2009年12月10日(木)午後4時30分 〜 午後6時00分
場所: 慶應義塾大学日吉キャンパス 第 2 校舎 2 階 224 番教室

月探査機かぐやはアポロ以降初めての総合的な科学観測を行った探査機であり、 2007年9月に打ち上げられ、2009年6月まで観測を続けた。かぐやには ガンマ線分光計(GRS)が搭載されていて、月表層の物質組成を調べるための 貴重な観測データが得られた。本講演では、かぐやGRSの開発、月軌道上での 観測運用および初期成果を中心に、講演者が携わっている宇宙ミッション について紹介する。


超水滴法による雲形成と降水現象の数値シミュレーション

島 伸一郎 氏(海洋研究開発機構 地球内部ダイナミクス領域)
2009 年 11月 17日(火) 午後 4 時 30 分

雲の精密なシミュレーションは, 気象学・気候学的に重要な課題である. 特に, エアロゾルの扱い等, 雲微物理過程が複雑で難しい. 我々は超水滴法という, 粒子法によ る, 確率的な雲微物理モデルを開発した. 少ない計算コストで正確に雲の振舞いを数 値計算できると考えられる. 今後更なる検証と拡張が必要であるが, 気象予報, 降雨制御技術の開発, 気候変動予測などに貢献できると期待される. また噴霧燃焼の シミュレーションなど工学的応用も可能であろう. 本講演では, 超水滴法の概要を紹介する とともに, その更なる高速化にむけた取り組みについても触れたい.

Reference:
S. Shima, K. Kusano, A. Kawano, T. Sugiyama, and Shintaro Kawahara, Q. J. Roy. Meteor. Soc., 135, 1307-1320 (2009). DOI: 10.1002/qj.441


AdS/CFT correspondence for condensed matter physics

疋田 泰章 氏(慶應義塾大学日吉物理学教室)
日時: 2009 年 10月 23日(金) 午後 4 時 30 分

AdS/CFT correspondence is a famous example of holographic duality, which relates gravity theory and gauge theory. One important aspect of this correspondence is that strong coupling physics of gauge theory can be described by classical gravity theory. Recently, it has been applied to condensed matter physics after the success of applications to QCD physics. In particular, high-Tc superconductor is believed to be a consequence of strongly correlated physics, so the AdS/CFT correspondence could be useful to understand the phenomena. In this talk I would like to review recent developments on the applications of AdS/CFT correspondence to condensed matter physics.


暗黒物質直接探索

山下雅樹 氏 (東京大学・宇宙線研究所)
2009年10月2日(金)午後4時40分

最近の観測で明らかにされた非バリオン暗黒物質の証拠は目覚ましいものがある。例えばWMAP衛星の 宇宙背景マイクロ波観測によると非バリオン暗黒物質は宇宙の質量の約20%を占めているとされ、暗黒物質直接検出の意義はますます高まっている。 現在、10以上の探索グループが存在し激しい国際競争の中にある。 このセミナーでは暗黒物質探索の意義、暗黒物質の直接検出の方法、また日本で行われているXMASS実験を中心に世界で行われている実験を紹介したい。


Invitation to topological quantum computation

Giacomo Marmorini(慶應義塾大学日吉物理学教室)
日時: 2009 年 7月 14日(火) 午後 4 時 30 分

The realization of the quantum computer is one of the greatest scientific challenges of the present day. Efforts in this direction involve both theoretical and experimental physicists, as well as computer scientists. The unit of quantum information, or qubit, can be thought of as a two-level quantum system. Operations on one or more qubits are then unitary transformations on quantum states. For its own nature a quantum computer is subject to two major sources of errors: interaction with the environment (that leads to quantum decoherence) and imprecision of unitary transformations. A recent and physically interesting trend aims to overcome the error problem with a completely new approach, namely Topological Quantum Computation (TQC). TQC relies upon topological, not local, properties of the system, so as to preserve it from local perturbations to a very large extent. The key ingredients are particle-like objects with generalized statistics (anyons), which do exist in 2+1 dimensions, in a degenerate ground state, that can be adiabatically moved around one another. Their trajectories braid in spacetime, which amounts to a non-trivial unitary transformation due to generalised statistics under identical particle interchange. Besides illustrating the fundamental ideas of TQC, we give a general description of some of the leading candidates for its physical implementation, such as FractionalQuantum Hall Effect and p-wave superconductors.


超弦理論による超対称ゲージ理論のインスタントン解析

松浦 壮(慶應義塾大学日吉物理学教室)
2009 年 5月 21日(木) 午後 4 時 30 分

よく知られた通り、素粒子の相互作用はゲージ理論によって記述されており、 ゲージ理論の非摂動現象を調べることは素粒子物理学の重要なテーマの一つで ある。ゲージ理論の非摂動効果の一つに「インスタントン」がある。近年、 N=2超対称を持つゲージ理論のインスタントン効果を厳密に評価する方法が Nekrasovによって開発され、超対称性を持ったゲージ理論の非摂動的な理解が 大きく前進した。今回のセミナーでは、インスタントンについて簡単に紹介し たあと、超弦理論の立場から、Nekrasovの方法の物理的な意味について解説す る。


宇宙線の起源をめぐって

桜井 邦朋 (神奈川大学名誉教授、早稲田大学客員顧問研究員)
日時: 2009 年 1月 22日(木) 午後 4 時 30 分

宇宙線は、この宇宙空間でみつかる粒子群のうち、最高のエネルギー領域に属 し、この天の川銀河内で起こるのが観測される高エネルギー電磁放射の大部分 を担う。宇宙線の発見から現在に至るまでの研究の歩みをたどりつつ、研究の 現状までを展望、将来について個人的な見通しを語る。


2008年


弦理論を用いたQCDの解析

講師: 酒井 忠勝 (茨城大学理学部)
日時: 2008 年 12月 22日(月) 午後 4 時 30 分

近年, ゲージ理論の非摂動論的な解析手法として弦理論が注目 されている。特に, ハドロン物理を支配すると考えられている 量子色力学(QCD)を, 弦理論の立場から理解する試みが盛んに なされた。しかしながら, 様々な困難のため, それらは QCDの物理を正確に記述することはできなかった。 そのような流れの中, 我々は現実のハドロン物理を(ほぼ)正しく記述する 弦理論のモデルを提案した。今回の講演においては, まずこのモデルが弦理論の 立場からどのように導入されるのかを簡単に議論する。その結果, ハドロン をある種の5次元のゲージ理論により記述するという, 一見奇妙な結論に到達 する。次に, この高次元ゲージ理論から導き出される定量的結果が, ハドロン に関する様々な実験結とよい一致を示すことを見る。 さらにこのモデルが, これまでのハドロンに関する伝統的な解析手法 とも密接に関連している点も興味深い。


乱流のLarge-Eddy Simulation

講師: 小林 宏充 (慶應義塾大学日吉物理学教室)
日時: 2008 年 10月 20日(月) 午後 4 時 30 分

乱流を予測する計算モデルの1つとして,Large-Eddy Simulation(LES)がある。 LESでは,計算格子スケール(grid-scale;GS)以上の渦は直接解き,計算格子ス ケール以下(subgrid-scale;SGS)の渦をモデル化する。最も有名なSGSモデルは Smagorinskyモデルで,気象予測のために作られた。本モデルを回転乱流や壁 を有する流れなどに適用すると,そのモデル係数を変更する必要があり,汎用 性が問題となっていた。その係数を流れ場からダイナミックに決定する方法が 提案され,その問題は解決されたが,その決定には流れ場の一様な方向が必要 であり,自動車,エンジン,タービンといった現実の複雑な流れ場には不向き であった。そこで,乱流中の乱れをコヒーレント構造(渦)として抽出し,その 周りで散逸が活発に起こっていることに着目した局所SGSモデルを提案し,様々 な乱流場で良好な結果が得られることがわかった。本講演では,LESの概要と 最近の計算結果を紹介する。


銀河系中心領域の星間物質

講師: 岡 朋治 (慶應義塾大学理工学部物理学科)
日時: 2008 年 7月 16日(水) 午後 4 時 30 分

クエーサーやセイファート銀河に代表される活動銀河中心核(active galactic nuclei; AGN)と呼ばれる天体からの強烈な電磁放射が、中心にある数百万-数百億太陽質量 もの巨大ブラックホールへの質量降着に伴う重力エネルギー解放に起因する事は、 理論・観測双方から十分に確立された描像と言える。点状電波源「いて座A*」として 認識される我々の銀河系の中心核もまた、370万太陽質量ものブラックホールを擁す ると言われる。しかしながらその光度はエディントン限界光度の数百億分の一と極め て暗く、現在は質量降着が活発でない事を窺わせる。中心核への質量降着の主成分 はガス・塵から成る星間物質であり、その分布・運動・組成・物理状態は電波望遠鏡を 使用したミリ波・サブミリ波帯のスペクトル線観測によって調べることができる。本講演 では、私たちが進めているミリ波・サブミリ波望遠鏡を使用した銀河系中心領域の観測 的研究について紹介し、同領域の星間物質に見られる過去の爆発的星形成活動の痕 跡と、過去・未来の中心核活動性について議論する。


量子最速曲線と量子計算

講師: 古池達彦 (慶應義塾大学理工学部物理学科)
日時: 2008 年 6月 24日(火) 午後 4 時 30 分

量子力学では、系のハミルトニアンを変化させることによって状態を変化 させることができる。与えられた2状態間の遷移を最速で行うハミルトニア ンを見つける問題は、それ自体が量子力学の基本的な問題として興味 深いだけでなく、近年発展が著しい量子計算理論においても重要である。 量子計算理論においては通常、計算の速さを基本ステップの数で表現さ れるが、「情報処理は物理過程である」と捉える思想や、実験装置を設計 する立場から見ると、計算の速さを物理時間を用いて定義するのが自然 である。我々は、最速状態変化の問題を、古典的な最速降下線問題をヒン トとして「量子最速曲線問題(quantum brachistochrone)」として定式化し た。本講演では、その定式化および簡単な場合の解、ユニタリ変換実現の 問題への一般化などをお話しし、余裕があれば、混合状態の場合の取り 扱いや、最近取り組んでいる量子計算理論への具体的な応用なども紹介 したい。


気候モデルの不確定性軽減に関するいくつかの研究の紹介

講師: 杉本憲彦(慶應義塾大学日吉物理学教室)
日時: 2008 年 5 月 13日(火) 午後 4 時 30 分

近年、温室効果気体の増加による地球温暖化問題に注目が集まっている。通常、将来気候の予測には、コンピュータ上で地球システム全体を再現した「気候モデル」が用いられる。モデル中では、大気や海洋の流体運動、熱力学、水の相変化に伴う雲や降水の微物理過程、化学反応、などが定式化され、それらを時間空間方向に離散化した後に、数値的に積分することで、将来の気候状態を求めている。しかしながら、その予測精度は様々な点で十分ではない。また、モデルデータは大規模化し、その解析が困難になる一方、個々のモデルの統一的な評価手法の欠如も問題となっている。 本講演では、気候モデルの不確定性の要因を説明し、その改善のために行ってきた「渦的流れからの大気重力波放射」の研究を紹介する。ここでは「渦からの音波放射理論」を援用し、地球回転の効果の重要性を議論する。また、気候モデルの大規模データを効果的かつ高速に解析する「球面自己組織化マップ」及び「曲率強調流線を用いた渦抽出」手法を紹介する。これらの手法を用いた、気候モデルを評価する試みについても触れたい。


2007 年


フェルミ原子ガス超流動におけるBCS状態とボーズ凝縮のクロスオーバー現象

講師: 大橋洋士氏(慶應義塾大学理工学部物理学科)
日時: 2007 年 12 月 11 日(火) 午後 4 時 30 分 〜 午後 6 時

 極低温フェルミ原子気体で実現する超流動では、フェッシュバッハ共鳴と呼 ばれる現象を利用することで粒子間相互作用を自在に制御することが可能であ る。この画期的性質により実現されたのがBCS-BECクロスオーバー(粒子間の 引力相互作用を強くするにつれ、超流動の性質が金属超伝導で議論されている 弱結合BCS状態から強く結合した分子のボーズ凝縮へと連続的に移行する現 象)であり、これによりこれまで別々に研究されてきたフェルミ粒子系超流動 とボーズ粒子系超流動を統一的に扱うことが可能となった。 本講演では、フェ ルミ原子ガス超流動について、BCS−BECクロスオーバー現象、及び、ク ロスオーバー領域における超流動物性について議論する。


古典および量子輸送系での対称性と非線形輸送関係式

講師: 齊藤 圭司 氏 (東京大学大学院理学系研究科)
日時: 2007 年 11 月 20 日(火) 午後 4 時 30 分 〜 午後 6 時

近年、平衡から遠い領域での輸送現象が理論実験ともに盛んに研究されるよう になってきた。非平衡統計力学の最近の進歩と、メゾスケールの熱伝導や電気 伝導の実験を紹介しながら我々の最近の研究もあわせて話していく。特に非平 衡統計力学における揺らぎの定理の原理とその重要性を強調し、メゾスコピッ ク量子電気伝導で最近盛んに実験が行われるようになっている完全計数統計と の密接な関係をお話していきたい。そして最終的に実験的に測定可能な非線形 輸送係数の間に成り立つ普遍的な関係式を厳密に導出する。メゾスケールの電 気伝導や熱伝導で観測されるべき重要な現象を非平衡統計力学の観点から網羅 的にまとめて紹介したい。


乱れと流れによる構造形成

講師:  横井 喜充 氏 (東京大学 生産技術研究所)
日時: 2007 年 7 月 11 日(水) 午後 4 時 30 分 〜 午後 6 時

乱れた流れである乱流は、非線型の方程式に支配され、エネルギーを主 として担う大きなスケールから散逸の生じる小さなスケールまでさまざ まなスケールの運動から構成されている。乱流の大きな特徴として、系 の輸送を促進し散逸へと向かわせる点がある。しかし自然界では、乱流 中にもかかわらず大規模な構造が生成され存続する現象も珍しくない。 台風・竜巻などの大規模渦構造や天体にみられる大規模磁場がその典型 例である。これらの現象では、ある種の「乱れ」が平均の「流れ」と組 み合わさることで、乱流の散逸的性質と均衡・競合する機構が働く。す なわち、乱れているからこそ構造が生成・維持されているのだともいえ る。どのような乱れと流れが結合することでどのような構造が生じるの か、非線型の乱流現象を解析する理論とモデルについて紹介しながら、 話をすすめる。


量子ドットにおける非平衡伝導と位相緩和

講師: 植田 暁子 氏 (慶應義塾大学 日吉物理学教室)
日時: 2007 年 5 月 29 日(火) 午後 4 時 30 分

半導体量子ドットは電子を半導体のナノスケールの小さな領域に閉じ込めた系 で、閉じ込めによる量子準位の離散性や電子の強いクーロン相互作用等により 電気伝導特性に様々な量子力学的効果が現れる。量子ドットにおける電気伝導 は、通常、ランダウアーの公式や久保公式を用いて計算されるが、有限バイア ス下での非平衡伝導を計算するにはケルディッシュグリーン関数等を用いて別 の取り扱いをする必要がある。本講演では量子ドットについて基本的な説明を 行った後、ケルディッシュグリーン関数による電気伝導の取り扱いと我々の研 究テーマである非平衡伝導下での電子の位相緩和現象について簡単に述べる予 定である。


放射線検出器とその応用

講師: 寺沢 和洋 氏 (慶應義塾大学 日吉物理学教室)
日時: 2007 年 4 月 18 日(水) 午後 4 時 30 分

放射線検出器は、素粒子物理学、宇宙線物理学、原子核物理学、核医学、線量 計測学、産業等、様々な分野で使用され、それぞれの目的に合った特有の検出 器が開発されています。今回のセミナーでは、私がこれまで取り組んできた研 究内容を最初に概説し、具体的な内容として、液体キセノン検出器とその応用、 宇宙放射線線量計測について述べる予定です。


軌道角運動量をもつ光:反射と透過にみられる巨大横変形

講師: 佐々田 博之 (理工学部)
日時:2007 年 2 月 5 日(月) 午後 4時 30分

円偏光がスピン角運動量をもつことはよく知られている。1992年近軸波動方程 式の解であるラゲールガウス光が軌道角運動量を持つことが指摘された。それ 以来、この光について盛んに研究されている。我々はガラス界面にラゲールガ ウス光を臨界角近くで入射するとその反射光と透過光が肉眼でわかるほど大き く変形することを見いだした。変形の方向は横(Goose-Haenchen shiftと直交) で軌道角運動量の符号により変形の方向が反転する。


2006 年


プラネタリウムの星の位置と明るさ

講師: 児玉 光義 氏 (五藤光学研究所)
日時: 2006 年 12 月 5 日(火) 午後 4 時 30 分

プラネタリウムは、スライドプロジェクターのような投影機の集合体で出来て います。スライドに相当するものをプラネタリウムの投影機では「原板」とい います。従って、恒星投影機の原板を「恒星原板」、惑星投影機の原板を「惑 星原板」、座標系投影機の原板を「座標系原板」などといいます。 天球に見立てたドームスクリーンに投影されたプラネタリウムの星々が、実際 の夜空の星々の位置と明るさが同じになるように恒星原板が作られています。 今回は、そのために、どのような工夫がなされているのかと言ったお話です。


ゲージ理論・弦理論双対性と可積分性

講師: 酒井 一博 氏 (慶應義塾大学 日吉物理学教室)
日時: 2006 年 10 月 31 日(火) 午後 4 時 30 分

素粒子の相互作用を記述するゲージ理論は、我々の暮らすエネルギースケール では強結合の理論としてふるまうため、摂動近似が適用できず解析が難しい。 摂動論を超えた解析への取り組みの中で、有望かつ画期的な概念として 挙げられるのが、ゲージ理論・弦理論双対性である。これは、ゲージ理論には それと等価な弦理論による記述が存在することを主張するもので、1970年代に 't Hooftにより提唱されて以来、様々なゲージ理論の場合について調べられ、 現在も活発な研究が続いている。中でも実用上最も重要な例が、4次元超対称 ゲージ理論と10次元超弦理論の等価性を主張するAdS/CFT対応である。今回は AdS/CFT対応の基本的な枠組を概観した後、最先端の話題として、これらの ゲージ理論・弦理論を、統計物理学の分野で培われてきた可積分模型の 定式化法を応用して解析する研究を紹介する。

文献:

  1. Commun.Math.Phys. 263 (2006) 611-657
  2. Commun.Math.Phys. 263 (2006) 659-710
  3. JHEP 0507 (2005) 030
  4. arxiv.org/abs/hep-th/0603043
  5. arxiv.org/abs/hep-th/0607190

周期的刺激に誘起される古典揺らぎ萎縮

講師: 田代 徹 氏 (お茶の水大学 物理学科)
日時: 2006年 6月 27日(火) 午後 4時 30分 〜 午後 6時

バネ定数が時間で周期変化する振動子(パラメトリック振動子)が熱浴と接し た系について、特に長時間極限における平均二乗変位の挙動を調べる。周期変 化が三角関数的である場合、その変化の程度が大きくなるにつれて平均二乗変 位が減少することが、標準状態程度の緩衝ガスを込めたポールトラップに於い て確認されている。我々はこの現象(古典揺らぎ萎縮)をパラメトリック振動 子のブラウン運動としてモデル化した。その結果、任意の周期関数に対する平 均二乗変位の解析的表現が得られたので、その詳細を明らかにする。またこの 表現をもとに、平均二乗変位を著しく減少させるような周期変化も提案する。


位相的ソリトン入門

講師: 新田 宗土 氏 (慶應義塾大学 日吉物理学教室)
日時: 2006年 5月 30日(火) 午後 4時 30分 〜 午後 6時

ソリトンは、イギリスの造船技術者スコット-ラッセルによって1834年に見出された。その場合のソリトンは浅瀬の波におけるソリトンである。しかし、現在ではソリトンは物理学(や数学)の様々な分野で現れ、重要な役割を果たすことが知られている。特に、位相的(トポロジカル)ソリトンは、位相電荷を持っているため安定に存在する。ゲージ理論における位相的ソリトンである、インスタントン(瞬間子)、モノポール(磁気単極子)、ボーテックス(渦糸)、ドメインウォール(壁)を中心に紹介する。また、関係したものとしてスカーミオンについても紹介する。特に解の構成方法とモジュライ空間の重要性を強調したい。

  1. Construction of non-Abelian walls and their complete moduli space, Phys.Rev.Lett. 93 (2004) 161601 [hep-th/0404198]
  2. Moduli space of non-Abelian vortices, Phys.Rev.Lett. 96 (2006) 161601 [hep-th/0511088]
  3. Skyrmions from instantons inside domain walls, Phys.Rev.Lett. 95 (2005) 252003 [hep-th/0508130]
  4. Solitons in the Higgs phase: The Moduli matrix approach, レビュー論文 J. Phys. A (in press) [hep-th/0602170]

2005 年


不安定 D-brane と弦の場の理論

講師: 瀬々 将吏 氏 (慶應義塾大学 日吉物理学教室)
日時: 2005年 12月 8日(木) 午後 4時 30分 〜 午後 6時

超弦理論(superstring theory)は、量子重力理論の有力候補であり、その全 貌を明らかにすべく、様々な研究が行われてきた。現時点での超弦理論は、特 定の真空のまわりの摂動的な「ゆらぎ」は扱えるが、真空自体を選ぶダイナミ クスを直接扱うことが困難である。この困難を解決する、「超弦理論の非摂動 論的定式化」を見いだすことが、現在の最も重要な課題である。 通常の場の量子論の手法を超弦理論に適用した「弦の場の理論」は、そのよう な非摂動論的定式化の候補として、古くから知られていた。近年、この理論が、 「D-brane」と呼ばれる、時空領域に広がったソリトン解の解析に有用である ことがわかった。特に、不安定なD-braneの崩壊現象という、きわめてダイナ ミカルな現象をうまく説明できることが判明した。 本講演では、不安定D-brane系を記述する古典解を解析的に構成し、この系の 性質を明らかにする。特に、我々が用いた厳密解の強力な手法により、 D-brane崩壊のメカニズムが様々な角度から、深く理解されることを示したい。

文献:
hep-th/0304261, hep-th/0405097, hep-th/0502042, hep-th/0506083, hep-th/0508196


量子ホール効果の新しい応用:THz発光、電位、雑音電圧の空間イメージング

講師: 河野 行雄 氏 (東京大学大学院理学系研究科)
日時: 2005年 10月 13日(木) 午後 4時 30分 〜 午後 6時

量子ホール効果は、1985、1998年のノーベル物理学賞の対象になっ たことからも分かるように、超伝導などと並ぶ物性物理の中の一大分野であ る。この現象についてなされた多くの研究は、2次元系の電子物性に関する われわれの理解を、時には想像を超えるような形で深めてくれた。その一方 で、量子ホール効果を利用して新しい機能を持つデバイスや高性能な計測技 術を開発する応用研究も、超伝導や磁性分野に勝るとも劣らず着々と進んで いる。本談話会では、われわれが最近開発した、量子ホール効果を利用した 3つの新しい走査型プローブ技術−THz発光、電位、雑音電圧のイメージング− とそれを駆使した量子ホール系における物性研究について紹介する。 (量子ホール効果を利用した技術を使って、量子ホール系の物性を探るとい うユニークな(?)スタイルで研究を行っています。聴衆の皆様がお互いを 混同しないように、注意して発表します。)


「一様流中におかれた二枚の帆が織り成す非線形現象」

講師: 杉本 剛 氏 (神奈川大学工学部)
日時: 2005年 7月 1日(金) 午後 4時 30分 〜 午後 6時

ヨットの季節がやってきました。海賊退治用高速帆船Jaght(「狩る」という 意味のオランダ語)に因むヨットの風上遡上能力や三角形の帆の秘密から話を 始めて、撓みやすい帆と流れの連成問題についてお話したいと思います。まず 帆が一枚の場合の二次元問題について議論します。パラメーターの組合せによっ ては多重解が出現するため、空力特性・張力特性にヒステリシスが生じます。 理論と実験の結果を紹介します。気流中におかれた二枚の帆の二次元問題につ いては、非線形性を相手にする有効な方法が知られていませんでしたが、最近、 私が見つけました。これについても理論と実験の結果を紹介します。一緒に考 察しましょう。なお、私自身はヨットに乗った経験はありません。


Effective Potential in Higher Dimensional SUSY Theories and Brane Models

講師: 一ノ瀬 祥一 氏 (静岡県立大)
日時: 2005年 5月 9日(月) 午後 4時 30分 〜 午後 6時

高次元超対称ゲージ理論を用いたブレイン模型を調べる。5次元理論の Mirabelli-Peskinモデルを例にとる。バルクおよびバウンダリーでの量子効果 を求める。その際、背景場の方法を使い有効作用を計算する。繰り込み問題、 真空構造の決定、余次元の取り扱いなどを議論する。


2004 年


「逆立ちコマとその運動」

講師: 佐々木 賢 氏 (横浜国立大学 工学研究院)
日時: 2004年 12月 13日(月) 午後 4時 30分 〜 午後 6時

逆立ちコマの不思議な運動はニールス・ボーアをはじめこれまで多くの人々魅了してきた。前半では、逆立ちコマの運動を、下村とMoffattが見つけた早く回転するゆで卵や回転楕円体の運動で成立するgyroscopic balance condition (GBC)の観点から分析する。後半では、逆立ちコマの定常状態とその安定性について議論する。また、安定性を判定する方程式と場の理論に出てくる繰込み群の方程式の類似性についても言及する。


「自転、磁場超新星におけるニュートリノ及び重力波」

講師: 固武 慶 氏 (東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻)
日時: 2004年 7月 5日(月) 午後 4時 30分 〜 午後 6時

重力崩壊型超新星爆発とは、大質量星がその進化の最終段階に迎える爆発現象のことである。大マゼラン星雲に起こった超新星1987Aからはニュートリノが検出され、神岡のグループがこの業績でノーベル賞を受賞した出来事は、現在発展の著しいニュートリノ物理学並びにニュートリノ天体学の始まりを告げただけではなく、重力崩壊型超新星爆発そのものの理解を大いに動機付けるものがあった。重力崩壊型超新星爆発はその他にも、元素合成、重力波、ガンマ線バーストなどの興味深い宇宙物理学的現象に関与しており、それを研究することで、宇宙物理学、素粒子物理学、原子核物理学などに於いて様々な知見が得られるという意味で重要な現象であることが知られている。ところがその重要性にも関わらず、爆発のメカニズムは完全には理解されていない。具体的に言えば、詳細な数値計算にも関わらず爆発を再現できていないのである。爆発のメカニズムを解明するためには、従来から重要視されてきたニュートリノ加熱に加えて、何か他に鍵を握る現象があるのではないかと考えらている。その様な状況の中、我々は星の自転や磁場などの多次元の効果に注目して研究を進めている。本談話会では、最近の超新星の研究の動向を紹介した上で、我々が得た結果、その示唆について報告したいと考えている。


「ダイナモ:乱流と磁場の相互作用から見る天文現象」

講師: 吉澤 徴 氏 (東京大学 名誉教授)
日時: 2004年 5月 18日(火) 午後 4時 30分 〜 午後 6時

地磁気を含む天文現象では、なぜ磁場が存在し続けられるかという、古くから の疑問がある。一方、星の活動エネルギー源となる降着円盤では双極ジェット のような流体運動が観測されるが、電磁力がその駆動力の有力な候補となって いる。磁場にかかわる緒現象は独立に詳細な研究がなされる傾向が強く、これ を体系的(横断的)に見る理論的研究は少ない。本小論では、いくつかの典型 的な天文現象をクロス・ヘリシティ(速度・磁場相関)をもとに統一的に理解 する試みを紹介する。


2003 年


重力レンズ効果

講師: 吉田 宏 氏 (福島県立医大)
日時: 2003年 10月 15日(水) 午後 4時 30分 〜 午後 6時

近年の観測技術の向上によって,「重力レンズ効果」による現象が数多く観測されるようになり,天体物理の領域でもマイナーな分野から脱出しつつあります。そこで,今回の談話会ではこの「重力レンズ効果」について,特に「重力レンズ効果とはどのような現象なのか?」,「この現象を観測することで何がわかるのだろうか?」について簡単に解説いたします。また,最近私がどのようなことを研究しているのかについても簡単に紹介いたします。


古代天文史料と天文学・地球物理学

講師: 谷川 清隆 氏 (国立天文台)
日時: 2003年 6月 24日(火) 午後 4時 30分 〜 午後 6時

天文学者は古代天文史料を使って歴史学に貢献したいと願う。過去の 天文学者の何人かはそれに成功した。さらに、天文学者は古代天文史 料を使って歴史学に貢献し、歴史学のその結果を使って天文学や物理 学、地球物理学に貢献したいと夢見る。月が遠ざかっていること、地 球の自転が遅くなっていることなどは、夢見る天文学者によって20世 紀前半に解明された。月は遠ざかるにしても、同じペースか? 地球の 自転速度は単調に遅くなっているのか? これが次の問題である。これ らについて講演者らが最近得た結果を紹介したい。結果を得るための 手法も紹介したい。


ビーム物理学

講師: 平田 光司 (総合研究大学院大学 ・ 加速器科学専攻)
日時: 2003 年 5 月 12 日 (月) 午後 4 時 30 分 〜 午後 6 時

加速器におけるビーム粒子は、古典カオスに支配される。加速器の設計にあたって は、 カオスをいかにおさえこむかが問題であるが、カオスを制御できるような解析的手法 は 存在しない。コンピュータによるシミュレーションが唯一の武器であるが、シミュ レーション には近似がつきものであり、最終的にシミュレーションに頼れるわけでもない。加速 器 設計の基本となるべき、カオスとの戦いを、多少、具体的に紹介する。


Diamond 格子上の空孔拡散

講師: 岡本 隆一 氏 (慶應義塾大学大学院 理工学研究科 基礎理工学専攻)
日時: 2003 年 1 月 9 日(木) 午後 4 時 30 分 〜 午後 6 時

結晶格子中の空孔拡散は、一つの格子点を複数個で占有できない、 最近接格子点に確率的に移る粒子達でモデル化できる。 平均二乗距離から定義された拡散係数は、 粒子の遷移確率だけでなく粒子密度にも依存する。 d 次元の正方格子に対して、 Nakazato & Kitahara [Prog. Theor. Phys. 64 (1980) 2261] は射影演算子を使って、この粒子密度依存性を精度のよい近似で計算した。 我々の研究室は、国際キリスト教大の北原研究室と共同で、 この方法を、蜂の巣格子や diamond 格子に適用することに成功した。 この方法がなぜ成功したかについて群論的に考察する。


2002 年



非可換空間上のソリトン・インスタントン

講師: 浜中 真志 氏 (東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻)
日時: 2002 年 10 月 17 日(木) 午後 4 時 30 分 〜 午後 6 時

非可換空間上のゲージ理論は, 普通の可換空間上の理論の単なる一般化ではなく, 背景に磁場の入った物理系を記述し, 時に非常に強力な手法となる.

非可換空間は座標関数同士の積の非可換性で特徴づけられるが, この関係式は, 量子力学の正準交換関係に類似しており, 「空間座標の不確定性関係」を導く. したがって非可換空間上では, 粒子の位置は完全に決めることができず, ある広がった分布を持つ. その結果, 可換な空間上では存在した場の特異点が, 非可換空間上では解消されるということが起こりうる. これはナイーヴな考察にすぎないが, 非可換空間上の場の理論では特異点の解消が一般に実際起こり, その結果例えば U(1) インスタントンといった新しい物理的対象が現れる.

このお話では, 非可換 Euclid 空間上の場の理論と ADHM/Nahm 構成法の基礎を簡単にレヴューし, インスタントン解の ADHM 構成を具体的に行う. 空間を非可換にしたときにインスタントン・モジュライ空間の特異点が解消されることを指摘し, 特異点解消により生じる U(1) インスタントンについて詳しく議論する. D ブレイン解釈も紹介し, 空間を非可換にする効果と背景に B 場 (磁場) を掛ける効果が何故等しいのかを説明する. 余裕があれば弦の場の理論への応用や可積分系の非可換化についても触れたい.

細部には立ち入らず, 主に場の理論的側面に焦点をあて, 非可換の特徴と面白さをできるだけ分かりやすくお話しする予定である.


立ち上がる回転ゆで卵の解

講師: 下村 裕 氏 (慶應義塾大学日吉物理学教室)
日時: 2002 年 7 月 11 日(木) 午後 4 時 30 分 〜

コロンブスは知っていたのだろうか、ゆで卵をテーブルに置いて両端をもって速く回すと立ち上がる。碁石でも同じようなことが起きる。どちらも良く知られた現象であるが、重心が重力に抗して上昇する点が不思議である。テーブルと回転物体との接点で働く摩擦力が不可欠で、エネルギー散逸系である。

講演者は英国ケンブリッジ大学に留学中、このテーマについてH. K. Moffatt教授と共同研究を行った。その結果、回転が速い場合にある運動定数が一般的に存在することを発見し、この運動を表す非線型連立微分方程式の解を得ることに成功した。(Nature,416, 385-386,28 March 2002.)

講演では、研究の動機、経緯、そして逆立ちごまとの関係も含め、上記論文の内容を解説する。さらに、論文では割愛した結果や最近得られた知見についても報告する予定である。


光円錐上の湯川模型におけるメソン的束縛状態

講師: 山本 裕樹 氏 (慶應義塾大学日吉物理学教室)
日時: 2002 年 5 月 16 日(木) 午後 4 時 30 分 〜

様々な素粒子の束縛状態を場の理論で求めるために、量子化されたハミルトニアンを対角化する方法がある。ハミルトニアンが粒子数を変える相互作用を含んでいる場合、完全な固有状態を求めるためには無限個の粒子を含む状態が必要だが、一般に無限個の粒子を扱うことは難しい。そこでFSTO (Fukuda-Sawada-Taketani-Okubo) の方法と呼ばれる方法を用いて粒子数を変える相互作用を消去するようにハミルトニアンをユニタリ変換すれば、変換後のハミルトニアン (有効ハミルトニアン) は粒子数を変えない相互作用しか持たず、有限個の粒子で対角化が可能となる。

ここでは光円錐量子化された湯川模型を例に、その有効ハミルトニアンがファインマンダイアグラムから直接得られることを示し、さらに有効ハミルトニアンに現れる三種類の紫外発散をいかに繰り込むかについて述べる。


ハミルトン系の保存量について

講師: 中川克也(総合研究大学院大学 大学院生・国立天文台)
日時: 2 月 28 日 (金) 16:30〜

初等力学における運動の保存則(エネルギー保存,運動量保存,角運動量保存) に見られるように,軌道に沿って値が一定となる保存量のことを第一積分という.十分な数の第一積分が存在すれば,運動方程式を解析的に解くことができる.このとき,系は可積分であるという.2次元ポテンシャル中の運動は,2つの互いに独立な第一積分が存在するとき,可積分である.エネルギー保存が成り立つとすれば,もう1つ第一積分が存在するかどうかが問題となる.与えられたポテンシャルに対して,第一積分が存在するかどうかを判定することはできるだろうか? また,その第一積分を求めるにはどうすればいいのだろうか?


スカラーテンソル理論

講師: 藤井 保憲 (日本福祉大学)
日時: 1 月 18 日 (金) 16:30〜

現代的な重力理論は Einstein の一般相対論に基づいている。 これは 1918 年に提出されたものだが、最近では実験的にも 非常な高精度で確かめられつつある。特に 20 世紀最後の 20-30 年間は、一般相対論が正しいことが、いろいろな面で 承認されてきた年であった。それにもかかわらず、いわゆる 代替理論に対する研究も衰えをみせていない。中でも スカラーテンソル理論の人気はさらに高いが、それには理由 もある。それはこの理論が、現代版の統一理論のある面を代 表している、と思われているからであろう。このような見方 から、スカラーテンソル理論の発展の有様を見渡したい。特 に宇宙論に関係して、最近では宇宙定数問題が新たな注目を 集めており、それとの関連を議論する。


2001 年



道路交通に起因する大気汚染と道路環境モデル

講師:坪田 幸政 氏( 慶應義塾高等学校 地学教室 )
日時: 11月8日(木)16:30〜18:00

 道路交通に起因する大気汚染物質としては,窒素酸化物と浮遊粒子状物質がある. 二酸化窒素と浮遊粒子状物質には環境基準が定められているが,主要道路近傍では 基準達成が困難な状況が続いている.道路行政では高度交通システム(ITS)の導入 が進められており,ITSを用いた道路の有効活用による環境負荷低減に期待が寄せら れている.

 ITS導入効果を環境面から評価するために,道路環境モデルの構築を行った. ITSを用いた交通施策は信号制御のような秒単位の施策から,ロードプライシン グなどの時間や日単位の施策が予想される.そこで,汚染物質の動態を観測やデー タ解析から調査した.その結果,汚染物質の動態は汚染質や時間スケールによっ て異なることを示された.また,高濃度の出現が発生源の変動だけでなく,気象 条件なども含めた複合的要因から決定されることを示した.

 交差点のシミュレーションから信号制御の変更により,環境負荷低減の可能性 を示した.首都圏を対象にしたシミュレーションからは,ロードプライシングや 動的経路誘導により問題領域の排出量低減は達成できるが,迂回交通による隣接 地域での排出量が増加し,移流効果を考慮すると,影響が広範囲に及ぶことを示 した.


クラスレートハイドレートの生成 〜分解過程の分子動力学シミュレーション〜

泰岡 顕治 氏 ( 慶大理工学部機械工学科 )
2001 年 6 月 28 日(木)16:30〜18:00

水分子間にできる水素結合により作られる包接格子の中に,ゲスト分子 が包み込まれてできる結晶をクラスレートハイドレートという.非平衡 下におけるハイドレートの分解・生成過程での挙動や特性を理解するこ とは,ハイドレートが原因で起こる天然ガス輸送パイプライン閉塞事故 の防止やハイドレートを用いたメタンガス貯蔵などに有効である. 本セミナーでは,分子動力学法を用いてクラスレートハイドレートの 分解・生成過程をシミュレーションした結果と,クラスレート水和物の 相変化過程の挙動や特性を理解するため各過程を分子レベルで解析した 結果をお話しする予定である.


「低次元可積分方程式から高次元可積分方程式へ」 〜 スカラー型 Lax 対を用いた研究 〜

戸田 晃一 氏 (慶應義塾大学日吉物理学教室)
2001 年 5 月 10 日(木)16:30〜18:00

我々の住んでいる世界が、空間 3 次元、時間 1 次元 (3+1 次元) であるにも関わらず、現在までに知られている非線 形可積分系の多くは空間が 1 次元である。それ以上の次元での 可積分系はほとんど知られていない。低次元可積分系の単純な 高次元への拡張では、その「可積分性」は保たれない。よって、 低次元非線形偏微分方程式の「可積分」という性質を残すような 次元拡張法(高次元化法)の構築は、自然界における「可積分性」 の役割を知る上で重要な研究課題である。 今回のセミナーでは、1+1 次元可積分方程式のスカラー 型 Lax 対を用いた 2+1 次元への次元拡張の有効性について話を したい。


2000 年


AdS3/CFT2 対応について

伊藤 克司(東京工業大学)
5 月 26 日 (金) 16:30 〜

素粒子間の相互作用を統一する理論の候補とされる超弦理論は、そもそ も、一次元に広がった弦が物理の基本要素である。しかし、最近、より 高次元に広がった物体(ブレーン)が理論の中に取り入れられ、さらに、 いくつかの双対性と呼ばれる理論の間の対応関係が指摘された。その結 果、これまで困難だと思われてきたいくつかの物理的な結論を超弦理論 から得ることに成功している。特に、反ドジッター時空上の超弦理論 (超重力理論)と共形場理論の間の双対性(AdS/CFT対応)により、ブレー ン上のゲージ理論に関する理解がここ数年で大きく進展した。このセミ ナーでは、AdS/CFT対応について、特に AdS3 空間上の超弦理論と2次元 の超対称共形場理論の対応を例にとって解説する。


Introduction to Quantum Information

森越 文明  (NTT物性科学基礎研究所)
6 月 23 日 (金) 16:30 〜

量子論的な系で表わされた情報というものは、従来の古典的な情報とは 本質的に異なる性質を持っています。その量子情報処理の典型的な例で ある、量子計算と量子テレポーテーションを、量子力学の知識のみをも とにして、紹介します。さらに、量子情報において重要な役割を果たす 量子エンタングルメントの性質についても簡単に解説します。


分光計測における揺らぎ

三井 隆久( 慶大日吉物理教室 )
10 月 26 日(木)16:30〜

 計測には不可避な揺らぎが伴い、高精度な計測の達成には揺らぎの性 質を知り、巧みに利用する必要がある。分光計測における不可避な揺ら ぎは、熱に起因する場合と量子効果に起因する場合がある。どちらも日 常的な環境の中では避けることができない揺らぎとして知られているが、 計測方法や原理の改良により計測値の質・信頼性を向上させることがで きる。

 「揺らぎの中に潜む系の情報」としてルビジウム原子の自発雑音の観 測、「揺らぎの低減化」として白色光干渉計の散射雑音低減化、「揺ら ぎを積極的に利用した計測」としてレーザーの周波数雑音を利用した分 光計測と再起励起分光法について述べる。


生物学者が分析機器を使うと

( LC/MSによる分子種分析と ―NMR による高エネルギーリン酸化合物の分析 )
西村 顯冶 氏 (慶應義塾大学日吉生物教室)
2000 年 12 月 15 日(金) 16:30〜

 今回の日吉物理教室談話会は、日吉生物教室の西村先生に講演をお願いし ました。物理の分野の中でも研究者によって価値観や着眼点、発想の仕方は 異なります。まして生物と物理では、この違いはさらに顕著であると考えら れます。本講演会では、西村先生が生物学者の観点から調べてこられたこと を題材に話をしていただき、物理の研究者の観点との相違を浮き彫りにし、 互いの価値観を認め合う場としたいと思います。


Department of Physics, Hiyoshi Campus, Keio University
Last modified: Tue Jan 26 11:51:12 JST 2016