物理: 20世紀の物理の世界 (通年 1996)
講義内容
20世紀において物理は非常に大きな発展を遂げ,物質,宇宙,などの考
え方が劇的に変わった.本講義では 20 世紀にあった物理の発展のうち
面白いと思われる側面のいくつかを理解することを目的とする.
現在行なわれている研究 (加速器実験,宇宙の観測など) も適宜
紹介する.
本講義では次のような内容を扱う予定である:
- 基礎物理:
物理の理解に必要な根本的な概念 (エネルギー, 温度,
波の干渉,...)
-
量子力学の不思議な世界:
不確定性原理とは?
19世紀の物理とどこが違うのか?
-
特殊相対性理論:
時間と空間が統一できるとはどういうことか?
宇宙旅行で年をとらないというのは本当なのか?
-
宇宙物理と一般相対性理論:
宇宙の ``初め'' と ``終り'' とは何か?
ブラックホールとはどんなものか?
それは我々の宇宙に存在するのか?
物理法則を呪文のように学ぶのではなく,物理法則の裏にどのような実
験的根拠があるのかということを解説する. 単なる言葉だけの抽象的
な理解を一歩踏み越え,スケールを大雑把に把握できた理解を目指す.
高校で物理を学んでいることは前提としないし,使う数学は中学程度の
初等的なものであるので,頭を使えば必ず理解できる.学生諸君には新
しい概念を理解しようとする姿勢を期待する. 新鮮でチャレンジング
であると思う.物理で学ぶ理論的な考え方,大雑把にものを把握する能
力,といったものは物理以外でも大いに役立つ.例えば物理を研究して
いた人で現在経済界など全く異なる分野で活躍している人は多い.
隔週ごとに,講義と実験を行なう.実験は2人1組で行ない,簡単なも
のなので恐れることはない.実験はインフォーマルな参加型授業なので
むしろ楽しいであろう.
講義で課す数回のレポート,実験レポート,そして講義と実験の出席状
況を評価の材料とする.試験はしない.1クラス60人くらいの人数制
限がある.
実験の教科書: 「物理の実験」 慶應義塾大学日吉物理学教室編
講義の教科書: 特になし
参考書
以下の本は広義内容に関連していて読んでみれば面白いのではと私が思
う本です.読む必要はありません.適宜項目を増やしていきますので興
味があったらたまにチェックして下さい.ほとんどの本に和訳があると
思います.判っているものについては書きました.
基礎物理,物理一般
-
R.P.Feynman,
"The character of physical law"
MIT Press
いくつかの独立した物理の読みきりエピソード.言葉ばかりで数
式は少ない.科学のトレーニングを受けていない人を対象として
書かれている. Feynman 節.口語調であるのは講演そ
のものであるから. 面白いが完成度は今一つ.(これはこの本
の性質上やむをえない.)
-
R.P. Feynman, R.B. Layton, M.R. Sands,
"Feynman's lectures in physics"
Addison-Wesley
ファインマン物理学 (全5冊) 岩波書店
Feynman の理科系学生を対象とした講義.Feynman らしく言葉が
多く,数式は少ない.生き生きとしている.文化系の学生であれ
ば全てを読もうとするのは大変すぎるが,初めの1,2冊の面
白そうなところを摘みぐいするには良い本である.講義録である
が他の人も手直しをしているので完成度は高い.
-
朝永 振一郎 「物理学読本」 みすず書房
Feynman の "The character of physical law" に似て幾つかの
トピックに関して数式を少なくして言葉で説明している.
Feynman ほど生き生きとはしていないが,歴史的な説明は
Feynman よりしっかりとしている.
- 表 みのる 「新・物理学」 慶應義塾大学出版
文化系学生を念頭において書かれた現代物理の教科書.
現代物理 (宇宙物理,総粒子物理,相対性理論など)
-
Kip Thorne "Black holes and time warps",
(W. W. Norton)
カヴァーはいかにも売りを意識した本で少し戸惑ったが,内容は
非常にマトモ.一般相対性理論,ブラックホール,そして
wormhole といわれるものに関して一般の人向けに平易に説明し
てある.面白い歴史的なくだりもふんだんに含まれている.私は
特に東西両方での水爆の開発の歴史が興味深かった.なぜ水爆
の開発が black hole と関係あるかって?本を読んでのお楽しみ.
まだ新しい本なので和訳が出ているか判らない.
- Steven Weinberg
"The First Three Minutes", (Bantam)
少し古い本だが科学者でない人を念頭に置いて宇宙誕生とその歴
史を説明した本.素晴らしい本で当時のアメリカでベストセラー.
平易な言葉でペダゴジカルに説明しているのが長所でも短所でも
ある.
物理の歴史
- V.I. Arnold, "Huygens and Barrrow, Newton and
Hooke", Birkhauser
Newton がいかにして万有引力の法則に到達したか,それに対す
る他の人の貢献はどのようなものであったか,といったことを説
明している.また,登場人物の性格の判るようなエピソードを多々
含んでいる.ちなみに重力の法則に関する Hooke の貢献は大き
かったが Newton はせこかった,といった話が書い
てある. 面白くて短いので気楽に読める.
- A. Pais, "Subtle is the Lord" Oxford University
Press
「神は老かいにして...」
A. Einstein の伝記.人間的側面そして特に科学的側面の両方を
詳しく扱っている.
素晴らしい本だが,大学物理をとっていない人は数式
は流し読みした方が良いであろう.しかし,数式を理解せず
とも十二分に面白い本である.真面目で重い (長さと雰囲気の両
方の意味で)本なので覚悟すべし.興味のある人には強く薦めら
れる.
- A. Pais, "Inward bound" Oxford University Press
20世紀の物理の発展,特に素粒子物理の歴史を語った本.上の
本同様,数式も交えて説明しているので物理に自信の無い人は全
てを判ろうとしないこと.量子力学の誕生,成長,そして完成に
関しての記述は素晴らしい.結構長い本.
その他
- S. Weinberg, "Dreams of a final theory",
Vintage
素粒子物理,もっと広くは物理,科学がなんであるか,なぜそれ
が社会に補助を受けるのが適切であるのか,といったことに対す
る彼の考え方を書き綴った本.真面目なカタルシス.この人ちょっ
と口調が重いので読み切るにはエネルギー必要.
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Last modified: Tue Aug 20 16:00:15 JST 1996