アメリカの大学院での PhD 取得について
初めに
私は学部 (東大物理)
を卒業してから
Physics Department, Princeton University で PhD をとりました.その後しばらくアメリカで研究をして
現在
慶應義塾大学
日吉物理学教室
に所属しています.
以下では日米での経験,友達との議論などをもとにして
アメリカ (USA) の大学院で PhD 取得に関して私個人の見解を幾点か述べます.
私の友人で先輩でもある
園田
さん (東大物理 B.A.,
Caltech Physics PhD) の
ページ
が参考になると思います.
日本では同じ大学の大学院に行く傾向があります.
逆に,アメリカでは大学院は学部とは違う大学院へ行くのが奨励されていて,
大学院側も同じ大学の学部からの応募は原則として考慮しないところも多いです.
たとえば私と同じ年に物理学科の院に入ったのは 25 人でしたが,
Princeton 出身の学生は一人もいませんでした.
物理学科大学院生を全学年合わせても一人もいなかったと思います.
私はむしろこの方が健全だと思います.
新しい大学院に行くことにより,
真の実力を試され,さらなる成長を促すと思います.
また,いろいろな意味で経験が増え,人間的にも成長すると思います.
日本でも学部と院の間で他大学との交流がもっと増えれば良いと私は考えています.
よって学生の方には,アメリカの大学院に行くかどうか以前に,
まず国内を含め他の大学院を考慮することを勧めます.
確かに他の大学の大学院に行くことが必ずしも良いとは限りません.
たとえば同じ大学の大学院がその分野でレベルが一番高いというケースも考えられます.
しかし,他の大学の大学院の可能性を十分考慮していない学生が多いと思います.
この点に関しては,
自分の大学,他大学の教員,先輩などと相談すると良いと思います.
私自身,当時自分の所属していた大学の教員に大学院への推薦状を快く書いてもらい,
相談して最終的にアメリカに行くことを決めました.
アメリカの大学院について
私は物理学科しか経験ありませんが,以下の内容は理系大学院には大抵当てはまるようです.
以下でアメリカの理系大学院の PhD 課程について日本と異なる点を主に説明したいと思います.
PhD 課程では M.A. をとらないで PhD をとれます.
もちろん両方取得することもできます.
- 専門の特化:
大学院入学時点では専門分野は決まっていません.
試験 (Preliminary exams, General exams,
Qualifying exams, Comprehensive exams, 等と呼ばれている)
に合格してから adviser と専門分野を選び,
博士論文に本格的に取り組みます.
試験を終えるまでに実力に応じて 1, 2 年かかります.
大学院によって試験のレベルの高さ,幅の広さ,
講義によって代用できるか,などが異なります.
たとえば Princeton 物理では講義の requirement は一切なく,
試験だけでした.
専門分野には需要と供給の関係が働きます.
私は入学時に意図していた分野を専門にしましたが,
人気のある分野の場合なかなか adviser を見つけられない,
という状況もありえます.
逆に,志望者の少ない分野であれば,
ほぼ入学時より研究に参加する,という場合もあります.
分野の基礎的な内容を幅広く知らなければならないのは,
アメリカの大学院教育の良い点だと私は考えています.
基礎をしっかり学ばずに早くから研究に専念すると,
柔軟性に欠け,長期的に見ると研究面でもマイナスの場合が多いと思います.
既に基礎的な内容は十分理解しているという学生もいますが,
そういう人にとっては試験はすぐに終わるし,
苦になるものではありません.
- Financial support:
一流大学では大学院生には,
授業料を考慮しても,自分で生活できる程度の援助があります.
私はとても嬉しかったのを覚えています.
Financial support を希望するかしないかは,
大学院に受け入れられるかどうかには影響しません.
援助の形態は以下のようなものがあります:
- fellowship (奨学金):
勉強するだけで良いです.
とても恵まれていて,珍しいです.
- TA (Teaching Assistant):
宿題の模範解答を作ったり,採点をしたりします.
実験助手の場合もあります.
週 20 時間相当です.
- RA (Research Assistant):
研究の補助をします.
週 20 時間相当です.
実験系がほとんどです.
実験志望の人にとっては早くから研究に取り組めるので有意義な場合が多いです.
アメリカの大学院入学に必要なもの
詳しくは大学院の応募要項で調べてください.
最近は WWW 上で調べられるので楽だと思います.
- GRE:
アメリカの大学院入試の統一試験です.
日本で申し込み,受験できます.
(WWW 上で申し込みできそうです.)
General と Subject の両方が必要です.
何度も受験したりすることも可能です.
Subject での点 (percentile ranking) は重要なので良い点をとりましょう.
GRE 向の問題集もあるので参考になると思います.
- 推薦状:
3 通以上必要だと思います.重要です.
知っている教員に良い推薦状を書いてもらいましょう.
- 応募理由:
志望した理由,大学院で何をしたいのかを書く必要があります.
- 成績:
大学での成績表が必要です.
自分で翻訳 + GPA (=Grade Point Average)
の計算をつけた覚えがあります.
- TOEFL:
英語コミュニケーションのレベルのテストです.
日本で申し込み,受験ができます.
理系の大学院での要求レベルは普通かなり低く,
さらに場合によっては多少下回っていても大目に見てくれます.
この requirement をクリアできない英語力ではアメリカの大学院に行っても得るものが少ないと思います.
最後に
最終的にはいかに自分の実力を伸ばすかということだと思います.
必ずしもアメリカの大学院に行くのが良いと言うわけではありません.
たとえば日本で一流の大学院に行く予定があるのに,海外の二流の大学院に行くのは賢くはないかも知れません.
日本で博士課程を終えて早い段階でポスドクで海外へ行くという選択もあります.
雑多なリンク集
アメリカに限らず主に大学の研究レベルに関連のあるリンク.
上記の内容は全て青木個人の見解であり所属機関の意向を反映するものではありません.
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Last modified: Thu Sep 23 16:12:17 JST 2004